
EATING PLANT
野生ユキヒョウによる
植物(Myricaria属)の利用が、
412日間のカメラトラップで明らかに。
完全肉食動物にもかかわらず、
なぜ、植物を食べるのか。
新たな生態の発見について、
国際論文で発表した
研究成果をご紹介します。
植物を食べるユキヒョウ
これまで、動物園で飼育されているユキヒョウの行動観察から、植物を食べることは知られていました。しかし、野生下でユキヒョウが実際にどのように植物を利用しているのかは明らかになっていませんでした。
そこで、植物が混入した糞や植物をかじった痕跡が確認されていたキルギス共和国のシャムシー野生生物保護区(The Shamshy Co-managed Nature Protected Area, Kyrgyzstan)に自動撮影カメラを設置し、野生ユキヒョウの行動を調査しました。


その結果、世界で初めて、野生のユキヒョウがMyricaria(ミリカリア)属の木の枝を噛み、飲み込む様子の撮影に成功しました。さらに、枝を食べる前に匂いを嗅ぎ、食べた後に頭をこすりつける行動も確認されました。
ユキヒョウは冬から早春にかけて、葉のないミリカリアの枝を先端から根元に向かって噛み砕きながら食べていました。一方で、Salix(ヤナギ)属の植物の匂いを嗅ぐ行動は確認されたものの、摂食する様子は観察されず、ユキヒョウが実際に食べていたのはミリカリアのみでした。
本研究成果は、ユキヒョウが特定の植物を偶然ではなく、何らかの目的をもって利用している可能性を示しています。今回撮影された個体は、調査地で長年にわたり確認されているオスのユキヒョウ「OMUTA」です(大牟田市動物園からご寄附いただいた自動撮影カメラによって発見された個体。詳細はこちら)。
論文(Kinoshita et al.,2026)の詳細はこちら
撮影動画の詳細はこちら (Copyright © 2026 twinstrust & Snow Leopard Foundation in Kyrgyzstan.)


他の動物については、ウマもミリカリアを利用していましたが、18頭中7頭の摂食行動が観察され、食べていたのは葉のある時期だけでした。また、ユキヒョウとは異なって、ヤナギの摂食も観察されました。
ユキヒョウが植物を食べた10日後に4頭のイヌも来ましたが、匂いを嗅いだだけで去っていきました。おそらくユキヒョウの食痕から何らかの匂いの情報を得ているのだと考えられます。
また、ユキヒョウの主な餌動物のアイベックスも67頭がやってきましたが、匂いを嗅いだのみで摂食は観られませんでした。
研究成果の意義
なぜ完全肉食動物であるユキヒョウが木を食べるのか。毛玉の排出を助けるため?寄生虫対策?ストレス軽減や口腔ケアのため?または、匂いのコミュニケーションに関係しているのでしょうか。
今回の研究では、その答えまでは分かりませんが、野生ユキヒョウによる植物利用を直接記録したことで、これまで推測にとどまっていた行動を科学的に示すことができました。本研究成果は、ユキヒョウの生態理解を深めるとともに、今後の保全研究に新たな視点を与えることが期待されます。



これからも
今回の発見は、1頭の野生ユキヒョウから得られた貴重な記録です。今後も調査を継続し、この行動が他の個体でも見られるのか、なぜ植物を利用するのかを明らかにしていきます。
根気よく調査研究を続けることは、ユキヒョウだけでなく、高山に生きる多様な生きものたちの保全にもつながります。私たちはこれからも、現地の研究者やレンジャー、村の皆さんと協力しながら、野生ユキヒョウの生態解明と保全活動を続けていきます。


【同研究チームによる関連論文紹介】
1.DNA分析を用いた研究成果により、ミリカリアが検出される糞中には、餌動物のDNAがあまり検出されないことも下記の論文で明らかにしました。これにより、空腹時にミリカリアを摂食する可能性が示唆されています。(Royal Society Open Science 11 (5), 240132)
日本語要約:https://www.wrc.kyoto-u.ac.jp/ja/publications/HirotoYoshimura/2024-rsos.html
日本経済新聞(2024年6月16日):https://www.nikkei.com/article/DGKKZO81422580V10C24A6TYC000/
2.動物園との共同研究により、ユキヒョウは展示場の植物を食べても毛の排出効果(吐き出しや排泄効果)はないことが実証されています。 (PloS one 15 (7), e0236635)
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0236635
3.小型、中型、大型ネコ科動物の科学論文を分析したところ、ユキヒョウは大型ネコ科動物の中でも、頻繁に糞中に植物が検出される(植物食行動が多くみられる)可能性が示唆されています。(Ecology and Evolution 11 (16), 10968-10983)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ece3.7885
